前記事のように長らく続いてきたネットトラフィックの爆発が収束しようとしています。それにより、通信関連市場も大きく動向が変わると予想されます。とりあえず、箇条書きで状況を列記したいと思います。
状況について
- 既存トレンド
- 固定網の市場拡大は緩やかに続いています
- モバイル網は大きく市場規模(売上)を縮小させています(いわゆる官製値下げの影響)
- (アクセス)通信市場全体としても、メイン収入だったモバイル網の市場縮小により、縮小しています
- CDN
- トラフィック増加の勢いが落ちると、一番最初に影響をうけるのがCDN業界です
- ただし、CDNの大規模契約はコミット契約であり、急に売り上げが落ちるわけではありません
- また、動画系トラフィックは成長率が落ちるとはいえ需要は伸びています
- 一方、Web系トラフィックは既に需要が落ちていますが、セキュリティ需要はまだ高く、セキュリティCDN系の成長率は鈍化はあるものの堅調であると思わます。ただし、単純なWeb系CDNについては、市場縮小のトレンドです。
- そして、AkamaiやFastlyでは、すでにトラフィック増加率は低調であり、将来需要の縮小に合わせたリストラが始まっています(通常CDN事業では年率2割程度の市場拡大を前提に設備・人員計画を立てていますが、そこまで需要が伸びないとわかると、(設備産業の常として)予定していた資源の放出を行い、スリム経営に切り替えます)
- ISP等のネットワーク事業者
- 過去1年を見るとトラフィックの増加は続いています。影響が出てきそうなのは来年あたりからだと思われます。
- また、契約数については、以下のように増加が続いています:
- 固定ブロードバンド:微増
- 移動系ブロードバンド:増加
- そのため、全体としては契約数を維持しながらトラフィック需要が落ち着くため、徐々に設備投資が軽くなり、経営が楽になると予想されます。
- ただし、最近はモバイルブロードバンドの低価格化が進み、単身者を中心に固定網を止め、モバイル網だけにする動きがあるように思えます。現状、このこの動きは表面化していませんが、顕著になると以下のような影響が考えられます:
- 固定系:市場縮小
- 移動系:固定系からの乗り換えトラフィックによるトラフィック増加
- また、需要急増が終焉すると、設備の効率運用(コストダウン)への圧力が大きくなります。また、外部(ユーザ、政府もしくはOTT等)からの圧力がある場合、料金値下げによる市場縮小も発生します。
- 機器ベンダー等
- トラフィック爆発が終焉すると、ネットワーク事業者の設備投資が縮小し、一番売上が落ちるのがこのセグメントです。
- このセグメントは、インターネット黎明期(ISP等は儲かっていなかった)に一番利益を上げており、市場変化の影響を一番最初に受ける(不調になる)のは仕方ないと思います。
ストリーミング事業者の基本スタンス
OTT(ストリーミング事業者)は、この需要停滞の流れにのり、以下の視点でネット接続費用の低価格化や費用補助をネット事業者に要求するというスタンスをとることになります。
- OTTの顧客拡大:OTTの顧客になるにはブロードバンドアクセスを購入してもらう必要がありますが、現状、かなりの数のブロードバンドを買わない・買えないユーザが存在します。このようなユーザのOTT顧客化には、ネット接続費用の低下価格化が必要です。
- 放送から通信への移行:放送は今後サービスを持続できない可能性があります(英Ofcom Future of TV Distributionレポート)。その際には、通信による映像コンテンツへのアクセスが必要になりますが、(年金生活者を含む)低所得者にとってブロードバンドアクセス費用は大きな負担になります。何らかの形で低所得者に対する接続費用の補助が必要です。