コロナの影響でトラフィックが増えたこともあり、ネット・トラフィックの最適化(トラフィックエンジニアリング)についての議論が盛んです。ただし、国内では、インターネットトラフィックを支配しているCDNについてまともな議論が行われていません(国内でのトラフィック議論は、CDNという「爆撃機」に対し、ネットワークオペレーションという「竹やり」で戦おうとしています)。今回は、この「最適化についてCDN的な議論をするとどうなるか?」について考察します。
CDNについての理解
まず、CDNについての正しい理解が必要です。
- CDNとは?
- 配信サーバを分散配置し、それぞれの配信量(トラフィック)およびユーザ割り振りを制御することにより、インターネット全体の(サーバ、ネットワーク)コストを最小化させる技術です。
- CDNによる、今どきのトラフィックエンジニアリングとは?
- ネットワークとサーバそれぞれの運用コストを総合的に判断し、サーバの最適配置、リクエストのサーバへの最適割振り、サーバとユーザ間の経路最適化を行う事です。
- 補足:昔(10年ぐらい前まで)のトラフィックエンジニアリング
- トラフィック経路(だけ)の最適化を行う事です。
CDNの現状
- CDNの利用率
- 肌感的には、インターネットトラフィックの7~8割ぐらいがCDN技術を利用して配信されています(要検証)
- 国内CDN網
- サーバ配置とリクエストナビゲーション
- だいたい調査済みです(最大分散はAkamaiの国内約50 ISP、最小分散はCloudfront等の国内1か所)
- https://www2.slideshare.net/MasaakiNabeshima/ss-238305194
- サーバ配置とリクエストナビゲーション
- CDN配信サーバ配置のパワーゲーム
- モバイル系ISPは多くのCDNサーバを網内に配置しています
- 固定系ISPも多くの場合CDNに対し協力的ですが、CDNに非協力的なISPも存在します
- 小規模ISPの場合、CDNサーバを望んでも配置してもらえません
- CDN、ISPの協調
- CDN間の協調、ISPとCDN間のレベニューシェア等、異なる事業者間での協調モデルの現状について
- 幾つかの試みは失敗したが、生き残っている試みや、最近本格化した新しい試みもあります(要詳細化)
- CDN間の協調、ISPとCDN間のレベニューシェア等、異なる事業者間での協調モデルの現状について
インターネット最適化の検証(シミュレーション)
- 基本パラーメータについての検証
- サーバおよびネットワークについて月次コストを比較します
- 肌感的に、ネットワークのバックボーンコストはサーバコストの10倍以上です(要検証)
- バックボーン最適化についての検証
- 基本モデル:以下の2つのパラメータによりシミュレーションできます
- 都道府県の人口比率、県庁所在地間距離
- ざっくり行った結果
- 仙台、東京、名古屋、大阪、福岡に配信ポイントを分散させれば、バックボーンコストは1/2程度にまで減少します
- 基本モデル:以下の2つのパラメータによりシミュレーションできます
- 県内網最適化についての検証
- 基本モデル:要検討(ちょっとややこしいです。要検討)
- ただし、直感的に放送同時送信のような安いサーバ(ルータ内での仮想実体からの配信)でもOKなコンテンツであればネットワークコストを半分以下に出来ると思います(要検証)
最適(分散)配信によるメリット
- QoE向上
- 高コストかつ不安定なネットワークを避け、その費用をサーバ側に回すことにより、QoEが向上します
- 料金の低減
- バックボーンコストは明確に下がりそう
- ただし、バックボーンコストはユーザが支払うインターネット費用の1/10程度しか占めていないと思われます。例えば、フレッツ(足回り費用)は月5,000円ぐらいしますが、ISP(バックボーンその他の費用)は月500円程度からあります
- 足回り回線は要検討
- CATVインターネットの場合、ヘッドエンドへのサーバ配置でネットワークコストを低減できそうです。一方、NGNにおけるサーバ直接配信は値段付けが高すぎるため使えません。現状のNGNタリフでは最適配信は困難です。
- バックボーンコストは明確に下がりそう
- 地方創生
- 地方に配信拠点を置くことで、地方における動画コンテンツの制作、直接配信を後押しできます
最適(分散)配信によるデメリット(抵抗勢力)
- 長距離回線業者
- 分散配信が行われると長距離回線事業者の売上が減少します
- 大手ISP
- CDN・ISPの協力関係を望まない(CDN事業者にも高い回線費用を請求する)大手ISPも存在します。このようはISPは、CDNに対して非協力的な結果、ユーザのQoEが低下している可能性があります。しかし、従来、ISP間のQoE比較は表に出ていません。一方、トラフィック最適化の議論がすすみISP間のQoE比較が表にでると、このようなISPは苦境に立たされます
- 一般CDN事業者
- 配信拠点が増えるとオペレーションコストが上がります
- 国内CDN事業者
- 高度なリクエストナビゲーション技術を持っていない(サーバ間をラウンドロビンで回しているような)CDN事業者は、ここで述べるような分散運用を行うことができません
- 足回り回線提供事業者
- インターネットのコスト構造が明確になってくると、今一番高い料金を徴収している足回り提供事業者への突き上げが大きくなる可能性が高いです
補足:国内議論の状況
現状、低位のネットワークオペレータにおける情報交換と、最上位の消費者を巻き込んだ議論の二つが行われています。
インターネットトラヒック流通効率化検討協議会(CONECT)
- 開始:2020年4月23日
- https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/conect/index.html
- ネットワーク・オペレータのサロンとして、ネットワーク運用についての情報交換を行っています。ネットワークアーキテクト的な話、CDN運用、OTT視点でのQoE計測等の上位の話は過去ありません。
インターネットトラヒック研究会
- 開始:2020年12月1日
- https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/internet_traffic/index.html
- 1回目が開催されたばかりです
- 主婦連合会が構成員に含まれるような最上位の議論が行われる予定です
本質的な議論にむけて
本来は、網構成を設計し構築権限を持つネットワークアーキテクト、インターネットのトラフィックを牛耳っているCDNの運用ポリシー決定者、すでにQoE計測を本格的にやっておりインターネットの状況を最もよく把握しているOTTを中心とした、以下のような議論が必要です:
- 国内のCDN網を今後どう設計・運用していくのか?
- 現在OTT各社が行っているQoE計測をどう一般化・匿名化し、Internet網全体の状況把握やKPIを定めていくのか?
大学教育周辺の者として教育用CDNを大学教育DXイベントで提案しようと考えています。
賛同者を探すのに適したらどのようなところが適切か教えていただければ幸いです。
足回りからインターネットへ抜けずに特定コンテンツホルダへpeerで抜ける口をつくることで差別化とコスト圧縮を図っているMVNOがあると思いますが、特定コンテンツホルダをCDNとして大学教育・初等中等教育(?)をひきこまればいわゆる「ギガが切れる」学生・生徒が減らせるのではないかというネタになります
教育用CDNを作ってもギガ切れ対策にはなりません。ゼロレーティングはマーケティング費用で賄われており、実際にはコスト圧縮を行っていません。