放送事業者向けCDNが脚光を浴びようとしています。日本で実装する場合の要件等について整理します。また、国内における放送用CDNについては、経営がしっかりしているNHKを中心に考えることが現実的です。
背景整理
- グローバルに見て、放送は映像伝達媒体としての役目を終えつつあり、通信への移行がすすんでいます。この結果、放送局のビジネスは破綻しはじめています。
- 放送のポジションが下がる中、以下の視点での配信設備が必要です:
- 地方情報の発信
- 地方発のコンテンツを効率的に全国配信できる
- 災害時における情報伝達
- 基幹網から切り離された状況でも、地方単独でローカルな情報発信ができる
- 民放(特に地方局)との設備共用
- 地方局は存続自体が危ぶまれ、独自のネット配信が必要になってくると思われます。そのインフラとして共用できるシステムが望ましいです
- 地方情報の発信
- さらに、英国では放送を全廃する可能性についても議論が始まっており、放送から通信への完全移行を将来的にカバーできるアーキテクチャにすべきです。
- 放送は、過去10年間で約3割程度の視聴時間を失い、その分を通信側がトラフィック倍増(2~3倍)で補っています。今後10年程度で、放送は、3割以上の視聴時間を失い、通信トラフィックは2~3倍程度になると思われます。
要件
必須要件
- マルチCDN
- 大規模な放送用CDNとしてはマルチCDNの利用が一般的です
- 特定CDNの故障(目安として数年に1回ぐらい発生)対策
- 高トラフィック対策
- オープンキャッシングのようなISP主体配信サーバの使用
- 大規模な放送用CDNとしてはマルチCDNの利用が一般的です
- 地方(県)単位のオリジン
- 地方からのライブ・VoD配信
- 県単位ぐらいでオリジンサーバを置くことが望ましいです
- オリジンサーバにある程度の配信能力(100Gbps程度)を持たせ非常時に単体配信も可能にするアーキテクチャが望ましいです
- コンテンツ管理システムについても、各オリジン独立で稼働できることが望ましいです(もしくは分散型OVP)
- 県単位ぐらいでオリジンサーバを置くことが望ましいです
- 地方からのライブ・VoD配信
- 広告対応
- 民放局との設備相乗りを行うために、コンテンツ管理システムにおける広告対応が必要になります。
- QoE計測
- プレイヤー側プラグインでQoE計測を行い、集計サーバでデータ集積を行うことが主流です
- 現状のQoE計測サービス(NPAW等)では、詳細解析はできないため、独自の解析システムを構築する必要があります
- 参考:OTT QoE計測の実際
- 災害時の送出品質
- 災害時等においては、ネットワークの輻輳が発生します(電話等の障害、災害情報への頻繁なアクセス)。
- そのため、災害時においては動画送出のビットレートを可能なだけ下げる必要があります。それには、画面サイズの縮小、フレームレート下げだけではなく、コンテンツ側の工夫(動きの激しいシーンを減らす、文字を優先させる)も必要です。
補助要件
- 分散型CDN
- 将来的に国内放送コンテンツのネット配信をすべて背負うCDNになる可能性があります。配信サーバをISP等の内部に配置できる分散型CDNであることが望ましいです
- メディア専用CDN
- 高度なメディア制御を行うために、YouTubeやNetflixのようなメディア専用CDNとすることが望ましいです
- メディア専用CDNは、Web用の汎用CDNに比べて実装が容易であり、これから実装しても先行サービスに追いつける可能性は十分あります
- 高度なメディア制御を行うために、YouTubeやNetflixのようなメディア専用CDNとすることが望ましいです
- QoE解析結果
- OTTが行うQoE解析は、国内Internetの健全性計測にもなります。解析結果を上手くISPや国民と共有できる仕組みを作りたいです
- 参考:インターネット健全性とQoE計測について
- OTTが行うQoE解析は、国内Internetの健全性計測にもなります。解析結果を上手くISPや国民と共有できる仕組みを作りたいです
- 国産化
- マルチCDN、メディア専用CDN、QoE計測サービスについては、実装が比較的容易です。5年ぐらい先には国産システム化そしてASEAN諸国へのノウハウ輸出を行えるようにマイルストーン設定を行いたいです
- 国内研究開発事例
- マルチCDN、メディア専用CDN、QoE計測サービスについては、実装が比較的容易です。5年ぐらい先には国産システム化そしてASEAN諸国へのノウハウ輸出を行えるようにマイルストーン設定を行いたいです
補足
- 英国BBCは自社で独自CDN(BIDI)を運用しています
- NHK配信用設備作業班の設置について
- 総務省主導でNHK配信設備の検討が行われるようですが、委員選定がダメダメです。
- 検討には以下のメンバが必要です
- ABEMA:国内OTT最大手事業者
- Google Cloud:YouTubeの配信インフラを使えるMedia CDN(国内SVoD最大手のU-Nextが使用)を提供
- WebDINO Japan:独自のQoE解析システムであるWeb Videomarkを開発・運用
- J-Stream:国内OVP大手(FODが利用)、マルチCDNにつての日米特許保持
- PLAY:国内OVP大手(Hulu、TVerが利用)