10ギガ・ネットの不必要性(10G詐欺)


最近、一般家庭向け固定インターネットにおいて超高速を謳う10G(ギガ)プランが登場しています。しかし、一般的な動画視聴、ビデオ会議、SNS等だけを行う家庭については、10Gのメリットを感じることはほぼありません。一方、巨大ファイルの送受は早くなりますが、そのためには高速ストレージとケーブル接続が必須です。ゲームのQoEも上昇が期待できますが、その効果は限定的です。

一方、ISP等の通信事業者の幾つかは、誇大な宣伝を行っており注意が必要です。今回はこのあたりの10ギガ詐欺についてまとめます。

10Gを使い切れる設備

ネットワーク性能

現状、スマホ、ラップトップ、PC、テレビ、もしくは一般的なWiFi環境下では、10Gbpsを使い切ることはできません(一般に流通している機器の場合、最大1Gbpsの場合が多いです)。10Gbpsを使い切るには、基本的に10GbE対応のPCと有線のネットワーク機器を使用する必要があります。

また、WiFiの最高速度(WiFi-6eで9.6Gbps、WiFi-7で36Gbps)は、マルチストリーム通信を行った場合の性能です。たとえば6eの場合、ストリーム当たり1.2Gbpsで8ストリームすべてを使い切らないと9.6Gbpsはでません。一方、実際のクライアント実装としては1ストリームもしくは2ストリーム同時使用しか対応してないものも多いです。

ストレージ性能

ファイルの送受信については、PCに以下のスペックが必要になります:

  • 内部バス
    • PCIe等の高速バス必須
      • SATA3.0:転送速度は6Gbpsなので無理
  • ストレージ
    • SSD等の高速ストレージ必須
      • ハードディスク:転送速度は2Gbps程度なので無理

参考:手持ちノートPCのベンチマーク結果(直接読み書き)

  • Cドライブ:M.2 SSD
    • リード:1,771.85 MB/s (14.2 Gbps)
    • ライト:1,599.78 MB/s (12.8 Gbps)
  • Dドライブ:HDD+mSATA
    • リード:138.94 MB/s (1.1 Gbps)
    • ライト:112.83 MB/s (0.9 Gbps)

必要速度の実際

動画サービス

フルHD(1080p)動画:一般的な動画サービスにおける標準画質であり、大画面テレビの視聴にも耐える品質です(ブルーレイ品質)。この視聴に必要な帯域は10Mbps程度(大き目の数字です。実際には平均3Mbps程度)であり、このレベルの動画であればスマホのテザリングでも(たいていの場合)十分です(固定回線は必要ありません)。また、4人家族がそれぞれ別のフルHD動画を見る場合では、合計40M(bps)程度必要となりますが、一般的な1G回線プランで十分です(1G帯域の4%程度しか使用しない)。また、4人同時程度であれば、マンションなどのVDSL(100Mbps)でも間に合います。

4K動画になるとフルHDの4倍程度の帯域が必要ですが、それでも1視聴あたり40Mbps(1Gの4%、4人家族の同時視聴としても160Mbps(1Gの16%)です。10Gの必要性はありません。

8K動画については、一般的なVoDサービス(Netflix、Hulu等)では提供されていませんし(現状8Kコンテンツを提供しているのはYouTubeぐらいです)、表示可能なデバイス(8K対応テレビ、8K対応PC等)は高価であり、プロもしくはマニア層にしか普及していません。

詐欺的表現

  • 嘘:映像データは、高画質になるほど容量が増大します。1ギガの光回線より、10ギガの光回線のほうが高精細な映像を自宅でたっぷり楽しめます
    • 画像データは4Kでも40Mbps(1Gの4%)程度です。10Gは必要ありません。
  • 嘘:1つの光回線に、複数の端末を同時に接続する場面が多い方にも、10ギガの光回線サービスがおすすめです
    • 家族4人が同時にフルHDの動画を見ても40Mbps(1Gの4%)程度です。10Gは必要ありません。
  • 嘘:4K・8K動画もサクサク
    • 8K動画の嘘:一般ユーザで8Kを視聴できる環境を持つ人はほぼいません(8K対応ビデオカード、8K対応ディスプレイ、8K対応PCが必要)。また、8K動画をサービスしているのはYouTubeぐらいで、一般的なSVoD(Netflix、Amazon Prime等)ではサービスしていません。
    • 4K動画の嘘:4Kでも40Mbpsもあればサクサク見れます。また、4K動画はテレビでの視聴が多いと思いますが、テレビのネットインターフェイスは最高でも1Gbps程度です。
  • 嘘:4K動画のダウンロードも早い
    • 4K動画はテレビでの視聴が多いですが、テレビやドングル等のネットインターフェイスやストレージは1Gbpsも出ないことが多く10Gbpsを使い切れません。また、テレビやドングルでのストレージは限られており、これらデバイスで4K動画(1時間あたり約50GB)を保存することは一般的ではありません。

サンプル

リスト化済み(近日公開予定)

光ファイバーの不必要性

そもそも、5Gの普及により、単身者がフルHDビデオをテレビで見るレベルであれば、光ファイバー自体が不要です。例えば、楽天モバイルの使い放題プラン(税込み3,168円)のテザリングで宅内のネットワーク接続は十分です。実際に、単身ユーザの固定ブロードバンド解約が増えています。

10Gが必要なユーザ

足回りボトルネックが顕在化している(近所にヘビーユーザがいる)ユーザ

光ファイバーは、一つのファイバーを32ユーザで共有しています(PON)

  • 1G回線(例:通常フレッツ)
    • 1G回線を32人で共有 (GE-PON)
  • 10G回線(例:フレッツクロス)
    • 10G回線を32人で共有(10GE-PON)

そのため、近所にヘビーユーザ(P2P?)がいる場合、その影響を受けます。また、1G回線については一般ユーザでも使い切る事があり(例:大型ゲームのダウンロード)、その影響が他の家庭にも及びます。一方、10G回線を一人のユーザで使い切ることは困難なので、特定のユーザが他の家庭に影響を与える可能性が低くなります。このように足回りがボトルネックになっている場合、10G回線は有効な手段になります。


ただし、1G回線のPON上部が既に10G化されいている(PONが1G・10G共用されている)場合、下流1Gを10Gにしても上部10Gがすでに飽和しており、下流10G化の効果はありません(これに関しては要詳細調査)。


また、もっと上位にボトルネックがある場合、10回線は無意味です。つまり、TCPの特性として、混雑ポイントがかなり上位にある場合、1G回線に繋がっているPCも10G回線に繋がっているPCも輻輳を検知すると同じレートで転送速度を下げます。そして、混雑ポイントに1G回線から到着したパケットも10G回線から到着したパケットも同じ優先度かつ同じ頻度なので、同じようにスピードが落ちます。一方、UDPで無条件最高速度送信した場合、10G回線が有利になりますが、一般的にこのようなUDPの「わがまま」送信は実装されていません(Internet全体の輻輳が悪化するため)。

SOHOユーザ

自宅で映像制作等を行い10GBクラスのファイル(1Gbps回線で約2分:10Gbps回線で約10秒)を頻繁に送受信するSOHOユーザにはメリットがあります。ただし、前述のように通常のハードディスクでは2Gbps程度でしか書き込めません。10Gbpsでファイル書き込みが可能な高性能PCが必要です

そして、回線側についても以下のような部分はベストエフォートでしかなく、期待する速度が出ない場合も多いです:

  • 足回り以外の回線(バックボーン、AS間通信等)
  • アップロード先サーバのパフォーマンス(最低でもマルチ10GbEか40GbE構成のサーバが必要です。またオンラインストレージサービスの場合、10Gbpsでの送受信が可能かどうか確認する必要があります)

ゲームユーザ

ゲームユーザについてはパッチのダウンロード待ち時間が減るというメリットがあります。

一方、ゲームプレイのQoEは、遅延とジッタに依存し、帯域幅は関係ありません。しかし、一般に広帯域の回線の方が、遅延とジッタが小さくなるという特性があるため、やはり広帯域な10G回線がゲームには有利になります。

ただし、定量的には、1Gから10Gにして遅延が1/10になるわけではなく、混んでいない回線状況では1ms以下です(要検証)。そして、混んでいる回線の場合、10Gの方が飽和しにくいため、より大きな効果が期待できますが、定量的な分析データは今のところ存在しません。

おわりに

以上のように、一般ユーザにとって10G回線導入の効果は限定的です。この事情を知らない一般消費者(情報弱者)に対し、「速さ」を誤認させるような広告は、止めるべきだと思います。一方、「10G回線は遅くなりにくい」というのは事実であり、広告に使うのであればこちらを訴求すべきだと思われます。

調査項目

未調査の項目です

  • WiFiで10Gでる?
    • 現在普及しているWiFi-6eの場合、単一ストリーム対応(1.2Gbps)のものは多くありますが、8ストリーム同時(9.6Gbps)使用できるクライアントはどれぐらい存在する?
    • また、スマホなどのバッテリー駆動デバイス(バッテリー容量は15Wh程度)の場合、wifiも低消費電力で動かす必要があり、システム上限がかなり低い設計になっている気がします
    • あと、規格上はWiFi-7でかなりスピードが上がりますが実際はどう?
  • フレッツ網
    • フレッツの場合、10Gも1Gも最寄りの局舎にあるSWで集約される?つまり、10Gは本当に最後の1マイル部分のみで、局舎以上は1Gと混ぜて伝送される?
  • 光ファイバ
    • 今どき、10G対応にするためにファイバーを引き直す必要はある?上記フレッツ網の質問に関連しますが、10G工事も結局、収容側の光トランシバーを10G対応に変えるだけ?
  • 10G回線の遅延は小さい?
    • 一般に、回線が広帯域の方がバッファ待ちが少ないので遅延が短い。ただし、この短縮は限られたもの、実際のところどう?
  • ゲームに必要な帯域?
    • 今どきのオンラインゲームは、画像等は事前にダウンロードしていて、必要なのはコントロールパケットのみ?なので、ゲームでも10Mbpsもあれば十分?
  • 10G回線はゲームに向くか?
    • 低遅延がゲーム向け回線の肝、今どきコントロールパケットもTCPだと思うので、前記の10G回線の遅延問題に行き着く?
  • ゲームの強制遅延挿入?
    • ゲームプロバイダによっては、遅延の少ないISPに対して、他のユーザとのバランスをとるために、サーバ側で遅延を強制付加しているという噂もある。実際どう?
  • クラウドゲームの帯域?
    • クラウドゲームの場合、画像のエンコード時間を抑えるために、画像の圧縮率が低め。それでも、フルHDゲームでも4Kビデオと同じぐらいの速度(20Mbps)でOK?
  • クラウドゲーム自体について
    • Googleとかは撤退し、G-clusterも死んだまま、これこそ、オワコン?まだ使っているユーザはいる?

参考文献


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8件のコメント

  1. 1G回線プランを契約しても、実際にはネット動画を観るだけですぐ固まってしまうようなサービスが蔓延しているので、10ギガならもっとマシじゃないかと思って契約する人は多いと思います。1ギガ回線プランについてはどう思われているのですか?(もし、「それがISPの怠慢だ」というのであれば、今回書かれている技術的な指摘はユーザーにとっては不要な議論ということになると思います)

  2. 回線提供者からしたら、電柱の下にぶら下がっているのが一人の時のbest effortを謳っているのであって、周りに沢山いればその1/8、あるいは1/64になることをある意味目標に営業しているはず。 ならば営業成功の暁には最終10G/64=150Mぐらいになる計算。 この計算なら1G→10Gにすれば動画視聴も快適! という理屈を立てられる。 

  3. そもそもサーバ側に10Gbpsのキャパがあるのかというのも問題かと。サーバ側の回線は、家庭用の回線よりずっと高いので、高速通信をずっと提供し続けるのは費用面から難しいかと思われます。8K動画なんて配信した日にはどれほどのお金がかかるのか、考えただけで恐ろしいです。

  4. > 10G回線(例:フレッツネクスト)
    この表現だと「『フレッツネクスト』に10G回線があるのかな」とうっかり勘違いする方がいると思うので『フレッツクロス』のほうが良いのかと・・・

    #大変しょーもないとこですが・・・w

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