現在の負担率
現在、ISPとOTT間におけるInternetのコスト負担割合は、だいたい1:100である。この負担率で様々なOTTビジネスが成立している。
コスト負担率:https://www.kosho.org/blog/net/why-ngn-sni-is-not-good/
Fair Contribution問題
「この負担割合をいくつにした場合に、社会全体が幸せになれるか?」という問題といえる。
今回の考察:負担率を1:10とした場合何が起こるか?
ビジネス面
ISP
新規に9%の売り上げがOTTから入るため、経営的には楽になる。しかし、このレベルでは、ユーザ料金の値下げにはならないと思われる。
OTT
VoD系サービス
売り上げに占めるネットワーク費用は数パーセントである(ここでは3%と仮定)。これを10倍にすると30パーセントとなり、営業利益(Netflixで営業利益率20%弱)をすべて食いつぶして足りない。そのため、サービス料金を3割上げるという形での対応となる可能性が高い。
広告系サービス
一般的に、広告系動画サービスは、売り上げに対するネット費用の割合が高い(ここでは10%と仮定する)。これを10倍にした場合、同程度の利益を得るためには広告単価を2倍程度に上げる必要がある。これは、広告系動画サービスであっても厳しいものになる。そのため、利益率の高いコンテンツ以外はサービスから消える可能性が高い。
ただし、広告単価についてはアドテクにより広告効果を向上させることが可能であり、将来的にはペイする可能性がある(しかし、急に単価を上げることは無理)。
ユーザ
以上の考察により、以下の状況になる:
- ISP料金は下がらない
- VoDの料金が上がる
- 広告モデルで視聴可能なコンテンツが減る
つまり、ISPは少し幸せになるが、OTTとユーザは不幸になる。
技術面(課金方法と料率)
ピアリング
IXの100G料金が100万円として、この10倍である「1,000万円/100Gをペイドピアとして支払う」という法律を作る。
ISP内部配信
ピアリングよりもISPにやさしいので、半額の「500万/100Gをネットワーク使用料として支払う」という法律を作る。
トランジットの国内配信拠点からの配信
配信先を一意に決定できないため、「1,000万円/100GをトランジッターがOTTに請求する。その後、トランジット先の割合に合わせて徴収した費用をISPに分配する」ことを強制できる法律を作る。
課題
CDN日本PoPからの配信料金
いくつかのCDN事業者は使用する配信サーバの所属する地域ごとに配信料金を設定している。国内でこのような法律が運用されると、CDN事業者は日本からの配信料金を高くすると思われる。また、地域別の料金を設定していないCDN事業者であっても、日本については追加料金を設定する可能性が高い。
海外からの配信
国内でこのような法律が運用されると、OTT事業者は追加課金の無い海外から日本に向けて配信してくる可能性が高い(HD程度の映像なら海外から配信してもQoEはほとんど下がらない)。特に広告モデルのアダルトサイト(コンテンツ費用はほぼ0、原価としてはネットワーク費用のみ。これに薄い利率でアダルト広告を載せている)は、ほぼ海外からの配信に切り替えると思われる。
この結果、国内ISPのトランジットトラフィックが増える。
国内CDN事業者
国内CDN事業者はIX配信比率が高く、このルールが適用されると、メディア配信のプラットフォームとしては成立しなくなる(海外先進OTTやCDNは積極的にISP内部配信を進めている)。この結果、国内メディア配信は海外事業者が占有することになる。
日本のOTT事業
日本だけOTTに高いネットワーク負担を求めることは、日本におけるOTTサービスを後退させる。日本だけは先進的なOTTサービスを使えないという、ユーザにとって迷惑な国になる。