国内OTTから見たFair Contribution (ドラフト版)


Fair Contribution議論に対する国内OTT事業者からのコメントです:

  • 固定網における従量制への考慮が必要
    • 今後は固定網における契約間のトラフィック格差が大きくなり、従量制の適用が必要だと思われます。従量制を考慮した議論が必要です。
  • モデルではなく、実際の費用分担額の議論が必要
    • 現在、日本におけるVoD事業者のネット負担は、全部足し合わせても200億円程度(売り上げの2~3%程度)だと思われます。また、VoD売り上げの半分はコンテンツオーナーに流れるため、VoD事業者のネット負担は頑張っても売り上げの1割(現在の3倍)程度が限度です。つまり、X兆円の通信産業に対しVoD側は400億円程度の追加負担しかできず、ネット全体の網整備費用には焼け石に水だと思われます。ただし、OTT側に対し、ネットを使いすぎないための懲罰的な意味で、ネット負担率を上げるのは効果があるかもしれません。
  • 広告モデルへの対応が必要
    • 現在、VoD系については順調に業績を伸ばしています。一方、地上波のネット配信やFASTのような広告系動画については、VoDよりも多くのトラフィック消費が必要です(直観的には、広告モデルの場合、VoDの10倍以上のトラフィック消費がないと同等の売上を確保できません)。つまり、広告系事業は、VoD事業者よりもネットワークコストに対して敏感であり、VoD事業者が受け入れたネット使用料率でも、広告系では受け入れられない場合があります。また、ネットの広告系動画は発展途上のサービスであり、米国でもまだ収支が厳しい状況です。安定した収支を得られるまで、追加の費用負担は無しにすべきです。
  • CDNサーバの粒度に対する考慮が必要
    • 先進的CDN(Youtube、Netflix、Akamai)は、配信サーバをISP内部に配置し、トラフィックを最適に配信しようとしています。一方、これ以外のクラシックCDN事業者は、ほとんどがIX等から配信するのみであり、ISPへの負担が高い配信事業者となっています。そのため、新規に配信側に網の費用負担を求める場合、先進的CDN事業者には軽く、クラシックCDN事業者には重くすることが妥当です。しかし、こうなった場合、国内CDN事業者(ほぼクラシックCDN)は、事業継続が困難になります。
  • 国内事業者保護のための配信費用無料化
    • 国内OTT事業者(特にCDN事業者)は、技術的に米国先進企業に後れをとっており、配信原価的にも不利な状況です。そのため、網に対する配信側の費用負担率がもともと低いこと(ユーザ側が100とすると配信側は1程度)もあり、国策として配信側の網費用を一律無料にする政策を望みます。もしくは、配信に対して追加負担を求めた場合、その一部もしくは全部を効率的な配信が行える国産プラットフォームの研究開発費用に回すことを希望します。例えば、100億円は、網事業者にとって既存市場規模の1%にも満たない額ですが、国内配信事業者にとっては数十年分の研究開発費に相当します。

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1件のコメント

  1. >固定網における従量制への考慮が必要
    これについては計測や課金、決済の費用を考えなくても良いという条件の下で、この提案には賛成です。利用した生産要素の対価をきちんと請求できない固定料金制では過剰利用をまねき資源配分の面からは非効率的です。ただし、利用者アカウントだけを認識しておけば足りる固定料金制と異なり、従量制を導入する場合には、利用量を正しく計測し、利用者毎に異なる金額を間違いなく課金し、決済するという手間が発生するので、そのあたりの考慮は必須です。ちなみに、郵便が全国一律料金のもとで事業創始されたのもそういった費用が原因です。
    >モデルではなく、実際の費用分担額の議論が必要
    それはそのとおりです。一介の研究者にはそうした実際の費用のデータが入手できませんので、ぜひご協力いただきたいです。あと、「OTT側に対し、ネットを使いすぎないための懲罰的な意味で、ネット負担率を上げるのは効果があるかもしれません。」の下りですが、これは懲罰的ではなく、外部費用を発生させているOTT事業者にその費用をきちんと請求するとして解釈すべきところです。かかった費用よりも高い料金を懲罰的に課してしまうと、利用が過剰に抑制されてしまい、効率性ロスが発生します。OTTサービスはブロードバンド利用を底支えしていますから、マイナスの波及効果はかなり大きくなる可能性もあります。
    >広告モデルへの対応が必要
    >CDNサーバの粒度に対する考慮が必要
    >国内事業者保護のための配信費用無料化
    この三点については資源配分効率性という観点ではなく、産業政策・産業育成といった観点から議論が展開されているようです。長期的な経済厚生を考えて行う産業育成策については、短期的な成果にフォーカスしがちな効率化政策とは異なる考慮が必要なことはご意見のとおりです。ただ、そこについては私の議論の枠外といわざるを得ません。
    (ご意見を否定しているわけではなく、私の分析では扱っていない論点だということです。)
    私からのリプライは以上になります。

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